どうしようもない


     

「ショーコさん、今帰り?」
 下駄箱まで降りようとして、階段の踊り場で中河原とばったり出くわした。
 同じクラスの男子だろうか、知らない顔が二人いっしょだった。短髪と茶髪、どちらも学ランを着崩している。
 うなずき返すわたしと中河原を交互に見比べていた。
「じゃあ俺も帰る」
 言葉の最後に音符がつきそうな勢いで中河原がほほえんだ。
「え、なに言ってんだよオイ、カラオケどーすんだよ」
 すぐ後ろにいた髪の短いほうの男子生徒が言う。
「悪ィ、また今度にして。かわりに俺の友達に連絡つけるから」
「おめーが来るっつーから女の子もOKしたんだろ」
「だよなー、ハハハハハ」
「中河原!」
 ハデな茶髪のほうがぴりぴりした声で牽制した。
 ……アホらし。
 またやってるよこの男は。
 わたしは無視して階段を下りはじめる。
「でも俺ショーコさんと帰りたいんだわ、今。カバン取ってくるから玄関で待っててショーコさん!」
 すれ違う1年の女の子が振り返った気がした。
「ほんとゴメンなー」
 短髪と茶髪にそれだけ言い残して中河原が教室へと戻ってゆく。
 ああいう時の中河原は本当に嬉々としているから、言われたほうも毒気を抜かれるのかもしれない。
「ダメじゃん、あいつ。もー、バカにつける薬はねーよな」
「……いいよ、せいぜい1ヵ月くらいの辛抱だろどうせ」
 わざと聞こえるような声だった。
 なにそれ。
 もしかして、イヤミのつもりなわけ?
 階段の下から見上げたら短髪のほうと目が合った。
「うわこえー、睨まれた」
 ……誰が睨むかボケ!!
 音を立てて下駄箱から靴を出し、大またで玄関を横切った。
 花壇の植え込みの角を曲がり、校門に向かったところで後ろから足音がする。
 着メロの軽快なメロディ。振り返らないままで聞いた。
 サビの部分までたどり着く前にケータイを開く音がして、メロディが途切れる。
 それからケータイを閉じるカチリという密やかな音が聞こえ――黒い学生服の影が追いついた。
 横に並ばれると、わたしの心臓は化学反応を起こしたようにすごいスピードで動き出した。
 ……どうしようもない。
 その瞬間に思う。
 ほんとうに、どうしようもない、と――。

 

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WEB拍手のお礼に載せていた小話です。
途中までしか保存してなかったので少し手直ししました。
Deleted scenes from Rakuen-Cyayaと銘打っていたとおり、本編を書きながらボツッたシーン。